掌編小説ノート

3分で読める、お手軽ストーリー

2017-01-01から1年間の記事一覧

オセロの神話

まだ人間が地表に現れるよりもはるかに遠い昔。この世界には「白の神」と「黒の神」という二つの神が共存していた。この二つの神は、よく形容される様な人に似た姿などは持たず、大気中を彷徨う成分の様な存在であった。 この二つの神には、それでも人間の様…

消費されていく教師と生徒

「シーモン先生は今日は学校をお休みします。代わりに教頭先生が授業を行います」教室における朝一番の教頭先生の報告に、元気のいい男子生徒のトッピンが質問した。「先生は病気ですか?」すると教頭先生は、一瞬思案した後こう答えた。「先生はご病気では…

個室で生かされるV.I.P.

24時間を個室で一人きりで生活出来るなんて、いい話だと彼は思った。マガンという20代の男が世俗の空気の中にいた頃、彼は転落していく人生の中で、最後に許されない罪を犯した。そして紆余曲折を経て、今彼は自分だけの個室を与えられ、その場所で生活して…

悩める乙女のベビードール

タイナは自らのノートを覗き見た。それは彼女の作曲の為のアイデアノートであった。彼女が所属する「ベビードール」という10代の女の子5人で結成されたアマチュアバンドでは、既成の曲のコピーに飽き足らず、オリジナル曲を作ろうという機運が高まっていた。…

今ここにいることに意味など無い

駅から出ると、そこには見知らぬ光景が広がっていた。それはありふれた風景ではあったが、日が沈みかけた夕暮れ時の、美しい町並みであった。トンボリという10代の少年は、この町が気に入った。初めて降りた駅の周辺に広がる町の賑わいに、トンボリはなぜか…

ひっそりと特撮オールナイト!

最近の子どもは知らないだろうが、かつてこの国には子どもたちを熱狂させた「特撮映画」という文化があった。それを知らないことにかけては、今時の子どもであるギャロという男の子も例外ではなかったが、彼は父親に連れられて「特撮の父・ガンパイク監督生…

歌姫の壮絶なる死の真相

「我々はついに宝を発見しました。しかしその為に大切な仲間を失った。私たちは邪悪な白猿と戦って散っていった、歌姫アリナの冥福を祈りたいと思います」 宝の地図を手にしたポッド隊長は、射撃王ビートン、格闘の覇者カンダム、呪術師タルム、そして歌姫ア…

「愛」なんて歌の文句だと思っていた

夕食の後、フーラとカレナの姉妹は、ソファーに座ってテレビを見ていた。テレビでは一般家庭の家族がチームを作りゲームで競い合う「待ったなし!崖っぷちファミリー」という番組をやっていた。二人はこの番組を見ながら、それぞれ「家族」という言葉につい…

悲しみのケセラセラ

ある朝新聞の朝刊にこの様な広告が小さく掲載された。「金運アップの秘密!私と握手しませんか?」その広告には広告主の電話番号・住所が記載してあり、24時間オープンとも書かれてあった。広告主の名はポレとなっていて、「成るように成る」という座右の銘…

マジメ人間 GO!GO!GO!

「そんなに不真面目な態度ばかり取っていると、いつか後悔するぞ」 学校の先生にそう言われ、ポノリという16歳の女の子は、わが身を顧みた。私ってそんなに不真面目かな?私の不真面目なところって、例えば遅刻が多いとか、宿題をよく忘れるとか、掃除当番を…

水筒の女神アテネちゃん

「今週の課題は、物語の創作です。面白いお話を作ってみてください。お部屋の中だけで考えるのではなく、外に出て取材をしたうえで書きましょう。だからといって空想してはいけないということではありません。空想も大いに結構。ただ題材は出来るだけ取材活…

ある夫婦の愛と喧嘩の記録

映画監督グーティ・トロッポは、自らの50歳の誕生日の翌日、自宅に撮影班を招き入れた。トロッポ監督の今度の映画はドキュメンタリー作品のようで、妻で歌手のポンポラ・トロッポは大した説明もなく、突然大勢の他人が自宅に押し掛けてきたことで、不快感を…

ちょっとおかしな古本屋

コロンタという本が好きな青年には、ミライ書房という行きつけの古本屋があった。ある日コロンタはミライ書房に、マルカ・タマルカという作家の「沈黙の掟」という小説が置いてあるのを見て驚いた。なぜならこの「沈黙の掟」は今日が発売日であることを、コ…

マジシャンに憧れて…

ポップデュオ「マジック&モンキー」のマジックは、二千人の観客を前にして、謝罪の言葉を述べた。 「どうもすいません。また弟が遅刻しておりまして…。弟が到着するまで、僕の下手な手品をお楽しみください」すると観客たちは苦笑まじりに「またか…」と思い…

劇場の笑気

モントリーコップ国際映画祭には、例年通り各国の気鋭が自信作を出品し、街は映画祭が続く一か月の間、華やかなムードに彩られた。映画監督や出演俳優が姿を見せると歓声が起こり、彼らは映画館の客と共に映画を鑑賞し、観客たちの賞賛の拍手を受けて、自分…

歴史はこうして作られた

時速350キロを超える夢の超特急の完成は、カンタン国の悲願だった。カンタン国はこの超特急の開発のために、隣国サーク国からモンボ氏という技術者を招き、そのサーク国の技術を大幅に取り入れて、超特急の開発を進めた。 隣国サーク国の技術者モンボ氏は…

青い稲妻に打たれて

バータイム小学校の中で、フォッシュという少年は完璧というイメージがあった。彼の学校の成績は、すべて良かった。彼は学校の人気者で、先生にも好かれていた。しかし彼は優等生であるがゆえに、息苦しさも感じていた。まだ子どもではあったが、自由を求め…

潜伏と逃亡の人生

ある寒い夜、暖房もない真っ暗な家の中で、男は缶詰を開けて、それを夕食の代わりとした。男は人目を避けて電気も付けずに、暗闇の中一人寂しい夕食の時を持った。 そもそも、この家は電気が付かなかった。この家は、本来住む者のいない家だった。この家の主…

落日のスポークスマン

ある小国のスポークスマンのコージ氏は、近ごろテレビで見ない日がないほど、連日活躍していた。それは、この国の首相を始め内閣の面々が、どうしようもないくらい次から次へと問題を起こすためだった。 コージ氏の悩みは、決して本当のことが言えないことに…

苦労するサンタと赤鼻のトナカイ

人気女優ファービラ・サンドリッチの一人息子パパタは、欲しいものを求めていた。それは、何か欲しいものがあるけれど、手に入らないという意味ではなく、欲しいものが見つからないという意味であった。 母親の成功によって、パパタは欲しいものが全て手に入…

絵の中で生きる二人の少女

ケララという女の子には、七十歳のおばあちゃんがいた。おばあちゃんはいつも絵を描いていた。 おばあちゃんが絵を描くようになったのは六十歳を過ぎてからで、ケララはおばあちゃんの絵が好きだった。おばあちゃんの絵の中には、いつも一人の女の子が描かれ…

幸運を呼ぶタヌキ

新しく軽食屋を始めようとしていた、プージャとその妻ルンダは、蚤の市を訪れ、何か店のシンボルになるものを探していた。 するとそこに、高さが2メートルもある、陶器でできたタヌキの置物を発見した。「なんか、あなたに似ているじゃない」と言って、ルン…

ロボットの沈黙

ある町の科学センターという名の子ども向けの施設には、人気者のロボットがいた。このロボットは名を「ファンタス」といい、子どもたちの科学のナビゲーターとして活躍していた。 そして、科学センターには、ファンタスのための整備士がいた。彼は二十代の男…

空に浮かんだレモン

ある日の夕方、バラコという少年は、空を眺めながら、何かレモンのような酸っぱい感覚が、頭をよぎるのを感じた。すると、空にレモンが浮かぶのが見え、不規則な動きをして、やがて消えていった。 バラコは確信した。「あれは、UFOだ」と。バラコは家に帰…

知らぬは目利きばかりなり

ある街の骨董屋の旦那は、大変な目利きで、皆から尊敬され、商売も上手くいっていた。 旦那には一人娘がいた。器量がよく、頭のいい娘だった。娘は父を尊敬していて、仲のいい親子だった。娘は二十歳になったころ、父親の弟子にあたる若者と結婚した。この師…

未来を変えた教え子たち

ある町で町長選挙が行われた。そこには二人の男性が立候補した。 一人は、この町で三十年間教師を勤めて退職したファンタース先生だった。そして、もう一人はこの町の大きな工場を経営するギロンチ社長だった。 この社長は財力があり、今度の選挙では惜しみ…

伝説の怪鳥

インチキ探検家のアノン氏は、探検隊を結成して、山に登った。そこには火を吐く怪鳥がいるという話だった。しかし、それは嘘だった。アノン隊長は、隙を見て、どこかで逃げるつもりでいたのだ。 ところが、逃げ道を捜す隊長を、大きな影が襲った。探検隊のみ…

残された指輪

ティックの足取りは重かった。彼の向かう先は病院で、そこには友達の妹のディーディが入院していたのだ。 ディーディの病気は重かった。それは、もう治らない病気だった。そんなディーディに会いに行くのは、辛いことだった。 ディーディはティックのことが…